CHAPTER 01

コンパッションを知る
セルフ・コンパッション 相手へのコンパッション
コンパッションとは、慈悲の心。
相手を理解し、共感し、幸せを願う力です。
コンパッションは3つの力が複合的に起動することにより、
大きなパワーとなります。

理解相手の立場を俯瞰的な視点で理解する力。

共感相手の気持ちに共感する力。

動機相手の幸せを意図し、助けたいと思う力。

01

セルフ・コンパッション

セルフ・コンパッション

コンパッションを育む第一ステップは、セルフ・コンパッションです。
相手を助けるためには、まず、自分に対して思いやりを持つ必要があります。

人はだれでも、つらい体験をするものです。
そのとき、セルフ・コンパッションは、「自分はダメだ」と自己批判するのでもなく、
「自分は大丈夫」と無理に自己肯定でもない、第三の道を提示します。

セルフ・コンパッションは、心理学でこの20年ほど急速に研究が進み、
その有効性から個人はもちろんのこと、組織においても今、注目が集まっています。

セルフ・コンパッションを実践している人は、不安、自己批判などのネガティブ感情が少なく、
自信、モチベーション、他人への思いやり、人生の満足度が高く、
リーダーシップも発揮していることが実証研究により知られています。
そう、セルフ・コンパッションを高めることで、幸せに活躍する道を歩むことができるようになるでしょう。

02

相手へのコンパッション

相手へのコンパッション

相手へのコンパッションを高めると、自分自身のポジティブな気持ちが増え、相手へ貢献したいという意欲が 増え、心身の健康も増えてきます。コンパッションを育むと、義務感からではなく、相手に貢献したいという 内発的な動機が生まれます。コンパッションの核心は、相手はもちろん、自分にもメリットがあることです。

共感とコンパッションは似ているようですが、異なると認識することが大切です。
共感は、漢字が示す通り、「共に感じる」のです。
つまり、共感とは、相手がつらい気持ちをもっているとき、自分もそのつらい気持ちを感じることができることです。したがって、共感すると疲労してしまいます。

今、対話、傾聴、1 on 1ミーティングなど共感が求められているシーンが増えています。
共感のみを使い、これらを実践すると必ず疲れてきてしまいます。
共感疲労を起こすのです。その結果、自分を守るために、共感することはできなくなり、
さらには心身の不調をきたします。カウンセラーやマネジャー、コーチ、先生、子育てしている親などの ケアギバーは十分に注意する必要があります。

近年の心理学および脳科学により分かってきたことは、共感は共感疲労を引き起こしますが、
コンパッションは疲労を起こさないのです。なぜか。コンパッションのもう一つの力である相手の幸せを願い、助けてあげたい力は、ポジティブな気持ちです。これにより、共感で生まれたネガティブな気持ちがポジティブ な気持ちへと転化するのです。これこそが、見過ごされがちな、コンパッションの本質的な作用なのです。

僕たちは、だれもがこのネガティブな気持ちをポジティブに転じさせる見事な心の作用をもっています。
ところが、多くの人がまだこの心の作用を知らず、開発をすることができていません。
残念ながら現在の教育システムにコンパッションの開発は手付かずなのです。
ここに、コンパッションを育むことの有効性と可能性があります。

01

リーダーシップとコンパッション

リーダーシップとコンパッション

組織や国のリーダーは、地位やリソースへのアクセスといったパワーをもっています。
パワーをもつと、人は自己中心的になることが知られています。
ここに明確に現代のリーダーが内在的に抱える不都合、そして、本質的な課題が浮き彫りになります。
自己中心的になったリーダーが重要な意思決定をすることを想像してみてください。
組織が引き起こす様々な不祥事、貧富の格差、環境問題などは、ここで指摘したリーダーの本質的な課題とは無関係ではないでしょう。

リーダーは、富を持ち、エリートであることも多いでしょう。そして、朝から晩まで多忙でしょう。
心理学が明らかにした衝撃的な事実は、このような人は、相手の立場に立ち、共感をすることができなくなります。また、多忙になると、人は自分に意識が向き、相手を助ける余裕がなくなるのです。
たとえば、ちょっと人は忙しくなるだけで、困っている人を助ける割合が六分の一になってしまうという報告もあります。

さて、自己中心的になりやすいリーダーの処方箋は何か?コンパッションを育むことと言えるでしょう。
コンパッションを開発することにより、リーダーは、相手の立場を考え、共感し、相手を助けたいというモチベーションを取り戻すことができます。

しかし、相手の立場を考えすぎたら、自組織の利益がないがしろにされてしまうのではないかと心配になるリーダーもいるかもしれません。ビジネスは厳しく、コンパッションを排除しなければいけないとどこかで思っているリーダーもいるかもしれません。これこそが、コンパッションをブロックしているひとつの要因です。結論は、そのようなことはありません。

実際、世界的なSNSであるLinkedInの前CEOジェフ・ウェイナー氏は、リーダーにとって、コンパッションが最重要と主張しています。コンパッションあふれる企業文化は、企業の競争優位になると指摘をしているのです。実際、科学的なエビデンスを見ても、コンパッションあふれる文化を作ると、企業のパフォーマンスが向上することが知られています。

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コンパッションとイノベーション

コンパッションとイノベーション

コンパッションは、人びとの苦しみを取り除き、幸せにしたいと純粋に願う心です。その目的のためには、前例とか今までのやり方など、現状維持が入り込む余地はありません。コンパッションな態度とは、前例や慣習より、人を幸せにできるかどうかを何よりも優先します。だからこそ、コンパッションは、新しい価値や新機軸を打ち出す力強い原動力になりうるのです。

たとえば、日本で初めて国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子氏。本来国外にいる難民しか支援できなかった従来の枠組みを変更し、国内避難民を世界で初めて支援しました。緒方氏は、「命を守る。これに尽きる。そのために、従来の仕組みやルールがそぐわないのなら変えればよい」と主張したのです。

コンパッションは、一見、やさしさや柔らかさで形容されることがあります。実際、痛みを癒すソフトな側面が確かにあります。しかし、コンパッションの表現形態は癒しだけではありません。人びとの根源的なニーズを守るために、力強く、激しく、そしてイノベーティブな言動として表現されうるのです。

なんとか、苦しみを喜びに変えたいという強い動機が、知恵を生み、イノベーションにつながるのです。

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ダイバーシティとコンパッション

ダイバーシティとコンパッション

コンパッションの核心は、ダイバーシティの尊重です。コンパッションの実践においては、すべての人は、つらい状況から抜け出し、幸せになりたいという願いをもっているという前提に立ちます。性別、民族、宗教、国籍、年齢、性的指向、収入、病歴、教育、体力、知力の違いに関わらず、人であれば、もっと広く、生き物であればこの願いをもっています。

僕たちは、どうしても、身内とよそ者というように分け、身内をより優遇し、よそ者に対しては無関心もしくは低くみる習性があります。この習性が、偏見、差別、対立を生んでいるのです。コンパッションは、だれもがもっている普遍的な願いを尊重することで、つながりと共感を生み、身内とよそ者の分断を乗り越えていく試みなのです。

僕たちがコンパッションを高めることで、人それぞれの個性を尊重し、全員が社会に参画する道を切り開いていくことができると考えます。