コンパッションを高める3つのアプローチ

数多くある練習法の中から、科学的に有効性が実証されている簡単なエクササイズを紹介します。

01

コンパッションを高める3つのアプローチ

  1. 練習をする
  2. まず、一番わかりやすいアプローチは、コンパッションを練習することです。
    コンパッションという神経回路を何度も通してあげて、コンパッション回路を太くしていくイメージです。
    たとえば、慈悲の瞑想と言われる瞑想法は、コンパッションを高めるのに有効です。
    実際、グーグルやリンクトインなどの企業にも取り入れられている手法です。瞑想と言っても、1日中行う必要はなく、1日10分~15分ほどを2か月ほど継続するだけで、変化があらわれてきます。

  3. レンズを変える
  4. 次に、コンパッションに関する見方を変えるというものです。僕たちは、コンパッションは生まれつきのものであり、変えることができない固定的にとらえていることがあります。実際はそうではありません。コンパッションは、スキルと同じように練習することで、伸ばすことができます。このように、コンパッションは伸ばすことができるスキルだと認識するだけで、コンパッションが高まることが知られています。

    また、セルフ・コンパッションについても、多くの人が誤解をもっています。セルフ・コンパッションを実践すると、怠惰になり、現状に甘んじてしまい、成長できないのではないかとネガティブな考えをもっています。これらは、研究によれば誤解です。このようなセルフ・コンパッションに関するネガティブな信念を取り除くだけで、セルフ・コンパッションが高まることが知られています。

    じつは、このウェブサイトの意図は、コンパッションに関する科学的な知識を提供し、コンパッションに対するレンズを変えることにあります。

  5. 環境を整える
  6. 最後に、人びとのコンパッションを促すように環境を整えることです。
    たとえば、組織であれば、コンパッションの実践を重視するコンパッション文化を育むことが挙げられます。
    そのためには、企業の理念や価値観に、コンパッションを取り入れることも有効です。
    上記の瞑想を練習するための、瞑想スペースをオフィス内に取り入れている企業も一つの環境整備の例と言えるでしょう。
    社員にボランティアをする機会を作ったり、社員同士をお互いにサポートする仕組みを導入したりすることも、コンパッション文化を育むのに有効です。

コンパッションの簡単な練習

02

コンパッションの簡単な練習

セルフ・コンパッションの練習

10分前後で取り組むことができるライティングのエクササイズです。

今、あなたがうまくできなかったり、恥をかいたり、もしくは、迷惑をかけたりし、自分自身についてダメだと感じている出来事を思い出してください。すぐに思いつかなければ、過去の出来事でもよいでしょう。

この出来事を思い出すと、今、あなたにどんな考えや感情が湧いてきますか。ストレスを感じる、恥ずかしい、悲しい、不安など、どんな気持ちでも書いてください。良し悪しの判断は別として、自分の経験を自分が感じたままに書いてみてください。自分の感情を軽視せず、また誇張しないようにします。

このつらい出来事を、友人が同じように経験したとします。彼らはどのようなつらい気持ちになるでしょうか。人によって苦労の仕方や、程度の差はありますが、人間であれば、チームメンバー、同僚や友人などだれもが、仕事でつらかったり、大変な経験をします。書く際に、つらい経験をするのはあなた一人ではないと心に留めてみてください。

このつらい出来事に関して、自分への思いやりと励ましの言葉をどんなものでも書いてみてください。なかなか思いつかない場合、親しい友人が、その出来事を経験したとしたら、あなたはどんな思いやりやはげましの言葉を伝えますか。その言葉をヒントに、自分への思いやりとはげましの言葉を書いてみてください。

上記に記載した思いやりとはげましの言葉を読み、どんな気持ちがするかを感じてください。心が落ち着いたり、助けになっていたりすることがあれば、その状態にある自分を感じてください。

出所:Neffら(2021)をもとに若杉が編集

相手へのコンパッションの練習

大切に思っている人を誰か心に思い浮かべ、以下の文章を自分に読み聞かせてみます。

私とまったく同じ

この人は私とまったく同じで、体と心をもっている。
この人は私とまったく同じで、気持ちや情動、考えをもっている。

この人は私とまったく同じで、これまでの人生で、悲しかったり、がっかりしたり、怒ったり、傷ついたり、うろたえたりしたことがある。
この人は私とまったく同じで、これまでの人生で、身体的な痛みや苦しも情動的な痛みや苦しも経験してきた。
この人は私とまったく同じで、痛みと苦しみから解放されたいと願っている。
この人は私とまったく同じで、健康で人に愛され、充実した人間関係をもちたいと願っている。
この人は私とまったく同じで、幸せになりたいと願っている。

それでは何か願いが湧き起こるのにまかせましょう。

コンパッション

この人が痛みや苦しみから解放されますように。
この人が幸せになりますように。
この人は全く同じで、人類の一員だから。
そして、私の知っている人がみな幸せになりますように。

出所:サーチ・インサイド・ユアセルフ――仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法 チャディー・メン・タンより、一部抜粋・編集

マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC)プログラム

MSCプログラムは、セルフ・コンパッションのスキルを身に着けることを目的として、クリスティン・ネフ博士(心理学者/テキサス州立大学)とクリストファー・ガーマー博士(心理療法家/ハーバード大学)によって2010年に開発され、世界各国で提供されています。

セルフ・コンパッションを効果的に高められるよう、週一回(3時間)のセッションと1回のリトリートで構成される8週間のプログラムです。

01

本プログラムの対象者

本プログラムの対象者

このプログラムは、心身をすり減らすことなく、幸せに活躍したいと願っているすべての人にとって、一生使うことのできるスキルとして役に立つことでしょう。

セルフ・コンパッションの知識や瞑想の経験は事前に一切必要ありません。

02

セルフ・コンパッションとは

セルフ・コンパッションとは

誰でも思い通りにいかず、思い悩み、つらい状況を体験します。このとき、自分をどのように取り扱うかが、幸せに活躍できるかどうかの分岐点になります。つらいとき、「なんて自分はダメなんだ」と自己批判をしては、ますます自信を失い、負のスパイラルに入ります。また、「自分は悪くない、自分は大丈夫」と無理に自己肯定をしようとしても、無理があるし、健全ではありません。

セルフ・コンパッションは、自己批判でも、自己肯定でもない、第三の道を提示します。それは、自分自身を思いやりをもって取り扱うことです。親しい友人に思いやりと励ましをもって接するように、自分に対してもその態度をもつことがセルフ・コンパッションです。

03

セルフ・コンパッションのメリット

セルフ・コンパッションのメリット

セルフ・コンパッションを実践している人は、不安、自己批判などのネガティブ感情が少なく、自信、モチベーション、他人への思いやり、人生の満足度が高いことが実証研究により知られています。

また、つらい状況への対処、燃え尽き症候群の低下、人間関係の質向上、働きがいの向上、モチベーションの向上、自分らしさの発揮、効果的なリーダーシップの発揮、さらには身体の健康増進にもつながることが実証研究により示されています。セルフ・コンパッションを高めることで、心身をすり減らすことなく、幸せに活躍することができるといえます。

セルフ・コンパッションに関してこのような疑問も聞かれます。「自分に思いやりをもってしまったら、自分を甘やかし、成長できない。むしろ、自分に厳しくするからこそ、成長できるはずだ」と。しかし、このような考え方は、必ずしも正しいとは限りません。データによれば、セルフ・コンパッションを実践している人の方が、自分の欠点を認め、改善する意欲が高いのです。また、セルフ・コンパッションのレベルが高いからといって、仕事の基準を下げるということもありません。また、自己批判は、自信の低下につながります。改善しようという意欲もそがれてしまうのです。

04

セルフ・コンパッションの高め方

セルフ・コンパッションの高め方

MSCプログラムでは、講義、様々なエクササイズ(瞑想、振り返り、ライティング)、グループディスカッションを通して、セルフ・コンパッションを効果的に高められるよう設計されています。また、セッション後にご自身で行っていただくホームプラクティスも紹介します。

MSCプログラムでは、34のテーマを取り扱います。そして3つのコアとなる瞑想法、その他4つの瞑想法、日常すぐに取り入れられる20の実践、14のクラス演習をカバーします。このように多様な視点からセルフ・コンパッションの理解と実践を深め、参加者それぞれがご自身のやり方を確立していくことができます。

05

MSCプログラムの効果

MSCプログラムの効果

本プログラムの効果に関して、学術的知見も得られています。ガーマー博士とネフ博士の研究によれば、本プログラムの参加者は、受講後にセルフ・コンパッション、マインドフルネス、他者へのコンパッション、人生満足度などが向上をしています。また、抑うつ傾向や不安、ストレスや逃避傾向が減少をしていることが確認されています。さらに、本プログラム受講後、6か月、1年後にフォローアップしたところ、MSCプログラムに参加した効果は持続していたことが分かりました。

06

MSCプログラムの概要

MSCプログラムの概要

  • セッション1:セルフ・コンパッションとは
    • イントロダクション
    • MSCにどのように取り組むか
    • セルフ・コンパッションとは
    • セルフ・コンパッションに関する誤解
    • セルフ・コンパッションの科学
  • セッション2:マインドフルネスを実践する
    • なぜ、ぐるぐると思考してしまうのか
    • マインドフルネスとは
    • 抵抗と受容
    • バックドラフト
    • マインドフルネスとセルフ・コンパッションの関係
  • セッション3:思いやりを実践する
    • ラビング・カインドネスとコンパッション
    • ラビング・カインドネス瞑想
    • 自分に合ったフレーズを見つける
  • セッション4:自分のコンパッションを見出す
    • セルフ・コンパッション実践の3つのステージ
    • 自己批判と安全性
    • 自分の内側にあるコンパッションを見出す
  • セッション5:深く生きる
    • 中心的な価値観
    • つらい体験に隠された価値観
    • コンパッションを相手に与える
  • リトリート
    • イントロダクション
    • 瞑想、ボディスキャンなど様々なエクササイズを体験する
  • セッション6:つらい気持ちと向き合う
    • 受容の段階
    • 怒りや悲しみといったつらい気持ちの取り扱い方
    • 恥をセルフ・コンパッションで受容する
  • セッション7:難しい人間関係を探求する
    • 相手とつながれない痛みとつながる痛み
    • 共感疲労
    • ニーズに気づく
    • 心の平穏を確立する
  • セッション8:人生を幸せに生きる
    • 幸せを感じる力を鍛える
    • 感謝とつながり
    • 自分の良さの認め方
    • セルフ・コンパッションの実践を継続するために